まず上の解剖の図をご参照ください。これまで多くの患者さんに説明した中で解りやすかったと人気がある解説をお知らせします。
外耳道内に耳垢がある、外耳道狭小(ダウン症のお子さんに多い)、外耳道閉鎖症などがあります。耳垢は必ず医療機関において除去する必要があります。
伝音難聴や混合性難聴を呈し骨導補聴器や軟骨伝導補聴器の適応があります。また手術で改善できる疾患もあります。
中耳には多いもので滲出性中耳炎、慢性中耳炎、真珠腫性中耳炎などの中耳疾患、鼓膜穿孔などの鼓膜疾患、耳小骨連鎖離断(外傷や先天的に3つの骨のどこかが外れているもの)、耳硬化症などがあります。
多くは治療や手術による治療で改善でき補聴器が不要となるケースもあるのでしっかりした医療検査や診断を受けることが重要です。医療機関同士のネットワークにより、このような疾患に強い医療機関(患者さんがお住まいの近くの)に紹介が可能です。
伝音難聴や混合性難聴を呈することが多いです。骨導補聴器や軟骨伝導補聴器、VSB(人工中耳)やBAHAなどの治療があります。
内耳の疾患には多くのものがありますが頻度が多いものから述べます。多くは感音難聴を呈します。
40歳〜50歳代から出現し、60歳代から増加し、70歳代で急に増加し、80歳代が補聴器の患者数は最多となります。超高齢化となり90歳代の数も近年増加傾向にあり、100歳代で受診される方も時々見かけます。医療や高齢者体制も進んできて、また健康に気遣うお年寄りが増えてきて長生きできている印象です。
40歳〜50歳代というとちょうど白髪が生えたり、髪の毛が弱くなったりする年齢に近くなります。
実はこの内耳には毛が生えている細胞があります(内耳の断面図→上図④有毛細胞)内耳にはリンパ液という液体で満たされて、音の振動によりこの有毛細胞が動き(ちょうどトランポリンを跳んでいるかのように)上にある蓋膜をこすり電気が流れるという簡単に言うとそのようなシステムになっています。
加齢により髪の毛が変化する年齢になれば、当然この内耳の毛も変化します。内耳の毛だけが永遠に黒々しているわけありません。内耳の機能がこのように低下すると難聴や耳鳴が出現します。
難聴を放置してしまうと認知症になるリスクが高まることは近年よく知られています。(Lancet論文で認知症の危険因子の一つに難聴が挙げられています。The Lancet 396: 413-446, 2020 https://www.thelancet.com/article/S0140-6736%2820%2930367-6/fulltext)
ですので軽度難聴以上の難聴でも日常生活に困難さを感じた場合は、早めに耳鼻咽喉科受診をお勧めします。
若い時から難聴が発生して進行する病気があります。近来、遺伝性難聴の診断の進歩によって、この遺伝子が精査によって同定されるケースがあります。病因がわかるというメリットだけではなく、遺伝子によっては国の難病の指定が受けられ補助が得られる場合がありますので、難聴遺伝子検査が可能な病院でご相談をお勧めします。
突然、難聴や耳鳴、めまいなどで発症する病気で早めの耳鼻咽喉科受診が必要です。早く適切な治療を受けられるかどうかにより、予後(回復しやすいかどうか)が変わってきますので、突然のめまいや耳閉感、耳鳴や難聴があれば翌日が仕事でもすぐに専門医を受診して下さい。一側が多いですが稀に両側の場合もあります。原因はストレスや過労、睡眠不足、ウイルス感染などが誘因のことが多いようです。騒音や強大音で同様の症状が出る場合もあります。
一側でも両側でも治療で改善しないことがわかり、難聴が1ヶ月以上継続するようならば困難度を回復させるために補聴器を適合しています(一側でも両側でもハンディキャップがあれば)。
当センターでは内耳のダイナミックレンジ(閾値、快適なレベル、不快なレベル)を測定して適合していますのでうるさくなく快適な試聴開始に繋げやすくなります。うるさくて煩わしい耳鳴があれば医療機関とも連携して補聴器による耳鳴音響療法行い成果を上げています。
突発性難聴だけではなく、加齢性難聴・老人性難聴、慢性騒音性難聴、音響外傷、など全ての感音難聴に対する難治性の耳鳴に対してインサートイヤホンによるダイナミックレンジ測定やピッチマッチ・ラウドネスバランス検査を行いそれらを参考にして補聴器やSGの選択、精密な調整を図って行います。
めまいを主訴に耳鳴や変動する感音難聴が主体になる病気です。低音障害する場合が多く聞き取りが不自由する場合は長い経過で聴力が中等度から高度難聴以上で補聴器を適合することが多くなります。
メニエール病は内耳のリンパ液が過剰な内リンパ水腫の病態ですので、症状としては音響過敏も一つ挙げられます。ですので内耳のダイナミックレンジが狭いことが多いので当センターでは上記と同様に内耳のダイナミックレンジ(閾値、快適なレベル、不快なレベル)を測定して適合しうるさくなく快適な試聴開始に繋げるようにしています。
騒音や強大音の暴露などにより内耳の毛の細胞(内耳の断面図→④有毛細胞)が減ったり磨耗して弱くなったりして難聴になります。一瞬の強大音で内耳の毛の細胞が吹き飛んでしまうなども過去に動物実験で観察される報告もあります。残された細胞、聴力を最大限に生かす方法で補聴器を適合しています。
a.先天性サイトメガロウイルス(以下CMV)感染症は先天性難聴の10〜20%程度を占め、新生児聴覚スクリーニングによって発見された難聴のお子さんで早期にCMV検査を行うことで診断技術が進んでいます(保険収載)。
長崎県では早期に生後3週間までに難聴を発見してCMV検査を行い陽性であれば抗ウイルス薬を投与して難聴発生を予防するという先天性CMV感染症対策プロジェクトが現在進められています。
CMVのお子さんで補聴器を適合する場合もありますが、多くは重度難聴で人工内耳手術を行う場合もあります。補聴器でいくのか人工内耳でいいのかは十分に補聴器適合、評価を交えながら医療機関やご家族と相談しながら進めていきます。
b.内耳や蝸牛神経形態異常は先天性難聴の20-30%程度を占めます。
CTやMRIで診断可能であり、早めの的確な補聴器適合が望まれます。重度難聴の場合は医療機関とも連携して人工内耳をお勧めする場合もあります。内耳形態異常は上図③内耳の形態異常、蝸牛神経形態異常は上図⑤蝸牛神経の形態異常です。
c.遺伝性難聴は先天性難聴の60-70%を占めます。難聴遺伝子検査ができてカウンセリングが可能な医療機関において遺伝子診断を行います。臨床遺伝専門医という先生方に行っていただきます。
最も多い遺伝子変異はGJB2遺伝子変異であり、Gapジャンクションという部位の異常でわかりやすくいうとイオンのチャンネルの異常により電気が流れないという難聴です。リンパ液の振動や有毛細胞の働きは良く、神経の形も正常なため、検査をするとダイナミックレンジが広いことが多く、補聴器や人工内耳の効果が十分にあるタイプの遺伝子変異です。
同じようなタイプの遺伝子変異にSLC26A4遺伝子変異があり2番目に多いですが、同様の理由で効果が上げられます。ただ、変動することも多く、CTやMRIで上記2の一つ、前庭水管拡大症を呈することがありますので、医療機関での精査が重要です。前庭水管拡大症については長時間の日光暴露や頭部外傷などで聴力が悪化する場合があるので注意や学校での啓蒙や対応が必要になります。
その他にも、先天性形態異常のある症候群やNICUなどで加療していたお子さんでPPHNという出生後高音部中心に難聴になるタイプ、髄膜炎、風疹症候群、おたふくかぜウイルスによる難聴、聴神経腫瘍などの脳腫瘍による難聴などもあり加療で改善する場合があるので、耳鼻咽喉科での精査や診断・加療がまず重要です。
(神田E・N・T医院 理事長・院長、長崎大学医学部臨床教授 神田 幸彦先生 監修)